ストレッチルーネの区域内価値、実際に計算してみた――設計の頭脳は紀宝町にあり
導入:調査票に向き合う 前回の記事(ふるさと納税制度改正で何が変わったのか――ストレッチルーネ事業者に届いた1本の電話から)で、安城市ふるさと納税担当から「制度変更のご説明」があることを伝えた。 その後、調査票が届き、いよいよ「ストレッチルーネの場合、実際どうなるのか」を数字で検証し始めた。 この記事は、その計算プロセスと、計算を通じて浮かび上がってきた制度の本質的な課題を記録するものだ。 前提を決める:何が「区域内価値」にカウントされるのか 計算を始める前に、ストレッチルーネの価値チェーンを整理した。 項目 所在地 割合 区域内価値? 箱(梱包材) 市外 6.4% × 市外価値 ルーネ本体加工 区域内 66.0% ◎ 区域内価値 芯材 市外 8.1% × 市外価値 労務費(設計・開発・ブランド管理) 市外 19.4% × 市外価値 合計 100.0% ― ストレッチルーネの価値は、「素材の集合体」ではない。企画・設計・ブランド・医学的エビデンスが価値の大半を占めている。しかしこれらの「知的価値」は紀宝町で発生しており、安城市の「区域内価値」としてカウントされない。 結果として、「知恵」は紀宝町にあり、「手」は安城市にあるという構造になる。 実際に計算してみた ① 製造原価ベースでの計算 まず、製造原価だけで計算するとこうなる。 返礼品提供価格(A):製造原価合計を100%として計算 市外で発生した価値(B):市外6.4% + 市外8.1% + 市外19.4% = 34.0% (A − B)÷ A = (100% − 34%)= 66% = 66.0% 製造原価ベースでは、安城市の区域内価値は66.0%となり、50%のラインをクリアしている。 ② しかし実際はもっと厳しい ただし、これはあくまで「製造原価のみ」の計算だ。 実際のふるさと納税では、返礼品の「提供価格」が基準になる。そしてその提供価格から、以下の市外費用が差し引かれる可能性がある。 ECサイト手数料・決済手数料 配送費・梱包作業費 倉儲費・在庫管理費 販売管理・事務手数料 これらが市外価値としてカウントされると、分子(A − B)が縮小し、50%ラインに近づく。 ③ 設計・ブランド価値はどう扱われるのか ここが最大のグレーゾーンだ。 ストレッチルーネの本質的な価値は「素材」ではなく「設計」にある。特許構造・医学的エビデンス・ブランドストーリー――これらは紀宝町で生まれた価値だ。 しかし制度上、これらが「価値」として認められて「市外価値」にカウントされるのか、それとも「付加価値」として除外されるのかは、現時点で不透明だ。 もし「設計・ブランド価値」が市外価値として厳密にカウントされるなら、安城市の区域内価値は一気に危険水域に落ち込む可能性がある。 50%を下回るリスクと対応策 対応策:芯材や箱の製造委託を安城市に移す 万が一、50%を下回る計算結果になった場合、最も現実的な対応策はこうだ。 箱(梱包材)の製造委託先:大阪から安城市内へ移行 芯材の調達先:市外から安城市内(または愛知県内)へ変更 これらを安城市内に集約すれば、市外価値が「設計・開発の労務費19.4%+配送費等」にまで縮小し、50%ラインを確実にクリアできる。 しかし、ここに大きなジレンマがある。 制度の構造的課題:製造力のある自治体に返礼品が集まる この対応策を実行すると、つまりこういうことになる。 「製造力のある自治体に、魅力的な返礼品が集まる」 箱を大阪から安城市に移す。芯材を市外から安城市に移す。これは安城市にとってはプラスだが、大阪や三重県の紀宝町にとっては仕事が減る。 そして、ここに制度の本質的な歪みが潜んでいる。 疑問:地方創生のバランスはどうなるのか ふるさと納税の本来の目的は「地方創生」――地域の経済を活性化し、人口減少・過疎化に悩む自治体を支援することだ。 しかし「区域内価値50%」という基準を厳格に適用すると、以下のような構造的偏りが生じる。 工業化が進んだ自治体(製造業・加工業が集積している地域)は、区域内で価値を生みやすい 工業化が進まない自治体(農業・観光業主体の地域)は、製造委託先を市内に持てないケースが多い 結果として、すでに産業基盤がある自治体に、さらに返礼品が集まりやすくなる。これは「富めるものに富を与える」構造ではないか。 具体例:3つの自治体にまたがるケース 極端な例を挙げると、こういうケースが考えられる。 一つの商品が、原材料はA市(33%)、加工はB市(33%)、設計はC市(34%)で生まれているとする。 この場合、 A市の区域内価値 = 33% → 50%未満 → 対象外? B市の区域内価値 = 33% → 50%未満 → 対象外? C市の区域内価値 = 34% → 50%未満 → 対象外? どの自治体も50%を満たさず、結果としてどこもふるさと納税の返礼品として使えなくなる。 これは「地域分散型モノづくり」をしている事業者にとって、大きな構造的ジレンマだ。 本当の「地方創生」とは ではどうすればいいのか。 一つの答えは、「区域内価値」の定義をもっと柔軟に解釈することだ。 企画・設計・ブランド価値を「無形の区域内価値」として認める 「国内産」「県内産」など、段階的な地域性を評価する 複数自治体にまたがる場合の「合算ルール」や「優遇措置」を設ける あるいは、もっと根本的には、ふるさと納税の返礼品制度そのものが、地方創生の唯一の手段ではないという認識が必要だ。 地域の「知恵」「文化」「自然」といった無形の価値を、返礼品という形ではなく、別の形で可視化する仕組みがあってもいい。 安城市への確認が必要なポイント 現時点で、安城市ふるさと納税事務局に確認すべき具体的な質問を整理した。 Q1:設計・開発費は「労務費」としてどう扱われるか?(紀宝町での設計価値は市外価値にカウントされるか) Q2:ブランド・特許・監修価値の算定方法は?(無形資産の取り扱い) Q3:複数自治体にまたがる場合の取り扱いは?(紀宝町+安城市+大阪など) Q4:梱包・検査・出荷作業の内訳提出は、どの程度細かく必要か Q5:「国内産」「県内産」など、区域内の定義に段階性はあるか これらの回答によって、計算結果は大きく変わる。 紀宝町でのふるさと納税の可能性 ちなみに、設計・開発・ブランド管理の頭脳が紀宝町にある以上、紀宝町でも返礼品として申請できる可能性がある。 紀宝町のふるさと納税制度を確認し、両自治体(安城市+紀宝町)での展開を模索する価値は大いにある。 「知恵は紀宝町、手は安城市」という構造は、一見ハンデに見えるが、両自治体の架け橋となる商品として、新しい価値を生み出せる可能性も秘めている。 結論:制度は変わっても、やるべきことは変わらない 計算してみて、少なくとも一つ言えることがある。 「ふるさと納税を通じて地域に貢献できること自体が、事業の誇りだ」 制度が変わっても、その本質は変わらない。地域に根ざしたモノづくりを続け、地域の人々と関係を築き、地域の経済に貢献する――これがマルゲンライフの姿勢だ。 今回の制度改正は、一見ハードルに見えるが、本質的には「地域に根ざしたモノづくり」を可視化する好機でもある。 安城市での製造を継続しつつ、紀宝町での設計・ブランド価値も発信していく。そして、調査票に真摯に対応し、安城市事務局との対話を続けていく。 「変化に対応していきたい」――それが、今の私たちの結論だ。 ― マルゲンライフ株式会社 ルーネ事業部 📌 関連記事: 第1部:ふるさと納税制度改正で何が変わったのか――ストレッチルーネ事業者に届いた1本の電話から 【ミッション】安城市ふるさと納税 × ストレッチルーネ──検索流入を公式サイトに取り戻すまでの全記録
続きを読む





